★とても大切なことなので、過去の記事を再掲します★
マイコプラズマやRSウイルスなど咳が主要症状の感染症が増えてくると、来院時に胸にホクナリンテープ(一般名ツロブテロール貼付剤)を貼っているお子さんを見受けることが多くなります。
「お子さんは喘息と言われたことがありましたか?」と聞くと「いいえ、咳がひどいので貼りました」というケースが大多数です。
「どういう病名で処方されたのですか?」と聞くと、「咳と鼻水です」とか「以前咳が出た時にもらったのを貼りました」という答えが返ってきます。
「ホクナリンテープは本来は喘息で狭くなった気管支を広げる薬で、咳を止める働きはないって知っていますか?」と聞くと、「えっ?そうなんですか??」と初めて聞いたような反応をすることも多くみられます。
つまりは、気管支が狭くなっているという状態かどうかの確認もせずに使われていることがとても多いということです。
これは主に処方する医師の側の問題です。
以前のような(私自身もやっていた)「出ている症状を消してしまおうと、一つ一つの症状に薬を当てはめていく」治療をしたり、「なんとなく効果があったようだからと経験に頼って」薬を出すことが、目的に叶わない処方になるのでしょう。
簡単に言えば、鼻水が出たら鼻水止め(抗ヒスタミン剤)、咳が出るから咳止め(鎮咳剤)、痰があれば痰切り(去痰剤)、熱が出たり・喉が赤かったり・鼻汁に色がついたら抗菌剤、咳がひどかったらホクナリンテープ(気管支拡張剤)という、市販の風邪薬の医療バージョンのことです。
咳が出ると言っても原因は一つではないのですから、本来その機序(何故そうなる?)に応じて治療が組み立てられなければなりません。
もしも鼻水がうまくかめなくてすすり上げたり飲み込んでしまったりして、それを出すために咳をしているのならば、それは鼻掃除の咳ですから、咳を止めることが良い治療とは言えません。
部屋の湿度を高くして、水分を十分に摂って、去痰剤で鼻を柔らかくしたうえで、鼻水をかませたり吸ったりして喉に落ちるのを減らせば、咳は勝手に減っていくはずです。
鼻が詰まったり、喉がカサカサしたりして、それが刺激になっている咳も同じことですね。
そうした原因に対する対処をしているのにもかかわらず、咳が多すぎて辛くて困っているというならば、その時は鎮咳剤で和らげることも悪くはないでしょう。
一方で喘息があって気管支が狭くなって息苦しいために咳込んでしまっているのならば、鎮咳剤は役に立たず、気管支を広げてあげることで呼吸が楽になって、結果として咳が静まります。
ここがホクナリンテープ(気管支拡張剤)の出番です。
このいずれの場合にも、鼻水止めと呼ばれる抗ヒスタミン剤には出番はありません。
第一の理由は、鼻水は鼻に入ってきた異物を包んで外に排泄するためのもので、悪い症状(無くせばよい)とは言えないからです。
第二の理由は、抗ヒスタミン剤を使うと分泌が多少減りますが、それ以上に鼻や口が渇いて、かえって咳を誘発する可能性が高くなるからです。
では抗ヒスタミン剤は何のためにあるの?というと、アレルギー症状をコントロールするためと考えるのが良いでしょう。
花粉症、鼻炎、蕁麻疹などのアレルギーは、本来反応する必要のない物や状況に過敏に反応して起こっているので、身体にとって有益ではないので薬で症状を消すことが良い結果に繋がるのです。
一口に「たかが風邪」といっても、実はとても奥が深い、難しいものなんですよね。
医療者と患者さんが協力して、よりよい治療を行えるように、これからも努力していきたいと思います。